アヒマディ博士のジュエリー講座 Vol.24
「アレキサンドライト」

 カラーチェンジ(変色)効果を持つ天然石は、幸福と喜びを呼ぶ宝石と呼ばれています。自然光と蝋燭のような光の下では、色の変化は非常に劇的で、神秘感をも与えます。

 このような特有な色変化をする宝石としては、アレキサンドライト、サファイア、ガーネット、スフェーン、ズルタナイト(ダイアスポア)、アンデシン、フローライトなどが挙げられますが、この中で最も魅力のある輝きを持つものはアレキサンドライトです。深い青―緑色から赤紫色に変化する宝石市場で最も価値の高い宝石の一つに数えられています。

アレキサンドライトとは

クリソベリルのキャッツアイ

▲ クリソベリルのキャッツアイ

 鉱物種としてはクリソベリルとなり、硬度はダイヤモンドとコランダムの次の8.5で、優れた靭性を持ち、衝撃で割れる性質を示す「劈開」がありません。日常生活でリングやペンダントに付けられる最適な宝石です。アレキサンドライトはクリソベリルの変種ですが、クリソベリルのキャッツ・アイに見られない‘変色効果’と呼ばれる性質を持ち、昼の太陽光下では青―緑色を示し、夜の人工照明(蝋燭のような光)下で見ると赤―紫色に変化します。

 ルビーやエメラルドと同様にクロム元素が含まれ、赤でもなく、緑色でもなく、太陽光下では、黄色を吸収し青緑色を発色し、照明の光温度が低くなると、クロムの吸収は黄色から短波長青―紫色範囲にシフトし、人間の目に赤紫色が映ってきます。

 アレキサンドライトは、その名の通り、ロシア帝国の皇太子アレキサンドル2世に由来したものです。1830年に、ロシアのウラル山脈のトコワヤ(Tokovaya)鉱山でエメラルドを採掘した際に、この不思議な非常に珍しい石が発見されました。上質のアレキサンドライトは、太陽光では明瞭な緑色から青みがかった緑色となり、白熱光の下で赤色から紫がかった赤色を示し、彩度も高いため、ロシア人に最も愛されてきた特別な価値のある宝石です。トコワヤ鉱山は当時世界で唯一大粒の上質な色合いの濃いアレキサンドライトを産出してきましたが、200年も経たない内に、資源が枯渇し、現在は入手が非常に困難になってしまいました。

Czar Alexander二世に因んでアレキサンドライトと命名

▲ Czar Alexander二世に因んで
アレキサンドライトと命名

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▲ ロシアのトコワヤ鉱山
(Pala International提供)

ロシア産アレキサンドライトの原石 (Pala International提供)

▲ ロシア産アレキサンドライトの原石
(Pala International提供)

世界の原産地

 アレキサンドライトは希少性が高く、ロシア以外にブラジル、スリランカ、タンザニア、ジンバブエ、ミャンマー、インドなどから産出されています。青―緑色から赤紫への色の変化の強いものは極めて少なく、5カラットを越えるものは非常に高価です。

ブラジル

 1987年にブラジルのミナス・ジェイラス州のエマチータ(Hematita)で品質の良い、ロシア産並みの青色の強いアレキサンドライトが大量に発見され、世界と日本のマーケットに素晴らしいものが提供されました。当該産地からのアレキサンドライトのもう一つの特徴は、透明度が世界のどの産地よりも高く、はっきりとした色の変化を示すことです。近年、産出量は激減し、上質の原石の産出は非常に限られています。

ブラジルのエマチータ鉱山から産出された最高品質のアレキサンドライト

▲ ブラジルのエマチータ鉱山
から産出された最高品質の
アレキサンドライト

人工照明下で赤紫色を示します。

▲ 人工照明下で赤紫色を示します。

【ブラジル ミナス・ジェイラスの地図】

【ブラジル ミナス・ジェイラスの地図】

スリランカ

 スリランカの宝石と言えばサファイアとキャッツ・アイが一番先に取り上げられますが、他の産地より黄色や褐色味のある緑色のアレキサンドライトはスリランカ南部に位置するムラワカ(Morawaka) 地域の漂砂鉱床で産出されています。特徴として、大きさはロシア産より大きいですが、赤紫色への変化ではなく、茶色がかった赤色への変化を示し、色の魅力は低い傾向にあります。

自然光下でのスリランカ産アレキサンドライト

▲ 自然光下でのスリランカ産
アレキサンドライト

人工照明下では茶色がかった赤色に変化します

▲ 人工照明下では茶色がかった
赤色に変化します  

タンザニア

タンザニア産アレキサンドライト

▲ タンザニア産アレキサンドライト  

 宝石品質の大粒のアレキサンドライトは、アフリカでは唯一、タンザニアでしか産出されません。タンザナイトが生まれたキリマンジャロ火山の麓のマニャラ(Manyara)漂砂鉱床から採掘されています。

 青―緑色から紫桃色に変化するのが特徴で、ブラジル産に比べて変色効果が弱いです。

インド

 1996年にインドの東部のアラク峡谷、そして2005年にナルシパトナム(Narsipatnam)地域から緑味の強いアレキサンドライトが次々と発見され、その多くはカボションカットが施されます。カラーチェンジの度合いが大きく、赤紫色が強く出る高品質のものもありますが、ほとんどが色変化の弱いものが多く、非常に強い光の中でやっと確認できる程度で、アレキサンドライトとしての魅力は低いです。

インド産アレキサンドライト(自然光)

▲ インド産アレキサンドライト(自然光)

インド産アレキサンドライト(人工照明)

▲ インド産アレキサンドライト(人工照明)

品質の評価

シャトヤンシー効果を示すアレキサンドライト

▲ シャトヤンシー効果を示す
アレキサンドライト

 アレキサンドライトは一般的に内包物が少ないのですが、色変化の強いものは価値も劇的に高くなります。

 平行に並んだ細い針状のようなインクルージョンが含有されると、猫の目のようなシャトヤンシー効果が現れ、アレキサンドライトの価値を高めます。ファセットされる石は、一般的にクラウン側にブリリアント・カット、パビリオン側にステップ・カットが施されます。仕上げた石をクラウン側から見た時に、色の変化が最大に見られるものは最も良いカットで、フェースアップで紫赤色と青緑色の両方の多色性の色が同時に見られることはとても重要です。

 現在、各産地から産出されているアレキサンドライトの原石は小さく、カットされた石はほとんど1カラット未満のものが多く、それ以上のサイズのものは非常に高額品として評価され、宝石コレクターからも羨望される存在となっています。しかも男性にも人気の石です。

アヒマディ博士

執筆

阿依 アヒマディ

理学博士・FGA。国際鉱物学会(IMA)宝石素材委員会日本代表。国際宝石学会理事。京都大学理学博士号取得後、全国宝石学協会 研究主幹を務め、2012年にGIA Tokyoラボを立ち上げる。現在はTokyo Gem Science社の代表およびGSTV宝石学研究所の所長として、宝石における研究、教育セミナー、宝石鑑別などの技術サポートを行っている。宝石の研究、鑑別に関して日本を代表する宝石学者。

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