アヒマディ博士のジュエリー講座 【WEB限定記事】
加熱処理について
加熱処理
▲ 加熱前後のサファイア
宝石原石は宝飾品として使用されるため、一般的に宝石の形にカッティングと研磨が実施されます。それ以外に色の改善や透明度を向上するための加熱処理と照射処理も施される場合が多いです。通常よく行われる加熱処理手法とは、宝石の余計な色味を除去したり、多数のインクルージョンを減らしたり、あるいは、潜在的な色を引き出したりするために、宝石原石を電気炉やガス炉などを用いて、外部添加物質なしで中高温にさらすことです。このような加熱処理はサファイアやルビーを含め多くの色石に施されている処理方法です。加熱後の色は通常は非常に安定で、退色することはありません。
▲ スリランカで古くから使われてきた
吹き管低温加熱法
▲ サファイア加熱用中高温ガス炉
▲ 高温加熱用電気炉
拡散加熱処理
宝石の色を改変したり、あるいは色を強調したりする目的で、加熱処理時に人為的に特定の元素を加え、宝石の表面や原子格子内に拡散・浸透させる加熱処理法です。
表面拡散加熱
▲ チタンによる表面拡散処理したブルーサファイア
無色または色の薄いコランダム(サファイアやルビー)をターゲットとして、外来添加物としてチタンやクロムといった着色元素を加熱過程に加え、色を石全体に浸透させてより濃い色を形成しようとした拡散加熱が1980年代に試みられましたが、チタンやクロムの原子が大きいため、コランダム内に浸透できず、表面にとどまるため、通常は“表面拡散処理”と呼ばれています。表面拡散処理されたルビーやサファイアは、着色された色は各ファセット表面のみに着いているので、再研磨すると、色がなくなります。このような石はほとんどお求めやすい価格で販売されています。
格子拡散加熱
▲ レーザートモグラフ法で観察した
ベリリウム拡散加熱したパパラチャサファイアの断面図
チタンやクロムよりもはるかに小さい原子であるベリリウム(Be)元素を外来添加物として加熱過程に加え、高温下でコランダムの格子内に拡散・浸透させて色を変える新しい格子拡散加熱手法です。通常は“ベリリウム拡散処理”とも呼ばれ、2002年から、彩度の高い「蓮の花」という意味を持つオレンジーピンク色の「パパラチャ」、オレンジ色、ゴールド、黄色のサファイアなどに幅広く使われています。格子拡散処理されたサファイアでは、ベリリウム元素は石の内部に拡散し、発色の因子として作用するので、黄色が形成されます。この色は石表面に限らず、内部までに分布します。
▲ ベリリウム拡散加熱処理した
パパラチャ、ゴールド、オレンジ、イエローサファイア
▲ ベリリウム拡散加熱用るつぼ
このような軽元素(Be)を看破するために、最先端の科学分析装置であるLA-ICP-MS(レーザー照射-誘導結合プラズマ-質量分析)がGSTV宝石学研究所に導入されています。
LA-ICP-MS(レーザー照射-誘導結合プラズマ-質量分析)
とアヒマディ博士
執筆
阿依 アヒマディ
理学博士・FGA。国際鉱物学会(IMA)宝石素材委員会日本代表。国際宝石学会理事。京都大学理学博士号取得後、全国宝石学協会 研究主幹を務め、2012年にGIA Tokyoラボを立ち上げる。現在はTokyo Gem Science社の代表およびGSTV宝石学研究所の所長として、宝石における研究、教育セミナー、宝石鑑別などの技術サポートを行っている。宝石の研究、鑑別に関して日本を代表する宝石学者。