(番組ガイド誌「GSTV FAN」 2018年4月号掲載)
アヒマディ博士のジュエリー講座 Vol.20
揺らめきの宝石 オパール
日本で馴染みのある最も人気な宝石のひとつであるオパールは、10月の誕生石であり、英国ビクトリア女王が最も愛した宝石としても世界によく知られています。「オパール」はドイツ語で、サンスクリット語のUpala-「宝の石」が語源とされています。卵の白身に良く似ているため、中国では「蛋白石」と呼ばれており、その後日本に伝わりました。
オパールの最大の魅力は、赤、オレンジ、黄、緑、青色などの虹彩が角度によって多彩に変化する「遊色効果」と呼ばれる現象です。この現象は、規則正しく配列した粒子に、光が当たるときに生じる独特の揺らめき効果により見られます。光の波が、球の間を進むと波が分散したり、曲がったりして、異なる波長の色に分解され、遊色効果を起こすのです。1960年にオーストラリアの科学者が、電子顕微鏡を使ってオパールの内部のケイ素の粒子の積層パターンを発見することで遊色効果は解明されました。
オパールの積層構造の模式図
ケイ素の球粒子が規則正しく配列しオパールの積層構造を形成する
オパールの種類
オパールは遊色効果の有無によっておおむね三種類に分けられます。
1. 《プレシャス・オパール》遊色効果を示すもの
プレシャス・オパールはマトリクスによってさらに、「ブラック・オパール」、「ホワイト・オパール」、「ファイ ヤー・オパール」、「ウォーター・オパール」の4種類に分類されます。
2. 《コモン・オパール》遊色効果を示さないもので、地色しか見えないが色が美しいもの
▲コモンオパール
地色だけを示す「ミルキー・オパール」、「ブルー・オパール」、「ローズ・オパール」がコモン・オパールとして扱われますが、それ以外に岩石の表層に球状のような付着した玉滴石や乳珪石や木蛋白石「ウード・オパール」などもこの種に入っています。
3. 《オパライト》遊色効果を示さないもので、半透明から不透明なもの
▲ハイドロフェーンオパール、
水に入れる前後の様子(写真提供:GIA)
半透明なものは「セミ・オパール」、光をわずかに透過する樹脂のようなものは「レジン・オパール」、ワック スの光沢を有する不透明なものは「ワックス・オパール」、水分のない単色のオパールで、水に漬けて光をあて ると遊色効果を現すものは「ハイドロフェーン」、苔状のインクルージョンを含むものは「モス・オパール」と呼 ばれます。
オパールの成因
▲鉄鉱石母岩中に形成されたオパール
堆積岩や火成岩の乾燥した地層の割れ目や隙間に、ケイ酸を含んだ雨や地下の熱水が充填した環境でできる、ケイ素の粒子の積み重なりから生まれる結晶構造をもたない非晶質の鉱物で、唯一水分を含む宝石です。ほとんどのオパール鉱床は1500万年から3000万年前に形成され、地球の表面に多く存在しています。
オパール鉱床ができるまで
ケイ酸分を含む雨や地下からの熱水が地層に浸透し、長い年月をかけてオパールを形成する
オパールの世界的名産地
オーストラリア
▲ブラックオパール
▲オーストラリア産
ホワイトオパール
オーストラリア中央部のニュー・サウス・ウェールズの原野で、広大なオパールの産地が1870年に発見され、グレーや黒色の地色に青、緑、オレンジ、赤などの色を持つ「ブラック・オパール」と、白や乳白色などを主体とする淡い色調の「ホワイト・オパール」が多く産出され、いずれも美しい遊色効果を示しました。中でも、鮮やかな赤色がきらめいたオパールは最高品質とされます。また、北部のクィーンズランドに鉄鉱石の空洞や隙間などに帯状の独特な光沢のあるオパールが産出され、「ボルダー・オパール」と呼ばれる母岩付きの研磨品に仕上げられています。現在オパールは、オーストラリアの国の象徴石となっています。
▲オーストラリア中央部のライトニングリッジでのブラックオパールの採掘現場
▲ライトニングリッジ鉱山地下の採掘の様子
▲ブラックオパールの原石
▲クイーンズランドのボルダーオパール鉱山
▲ボルダーオパールを観察する筆者
▲オーストラリアのナットといわれるボルダーオパール
メキシコ
▲メキシコ産
ファイヤーオパール
▲ウォーターオパール
13世紀のアンデス文明に登場したメキシコのオパールは、歴史的に装身具として使われてきました。黄色からオレンジ色を経て赤色までの燃えるような美しい地色を持つ「ファイヤー・オパール」と遊色効果が強く、水のような透明感のある「ウォーター・オパール」と母岩付きのメノウのような「カンテラ・オパール」があります。遊色効果が弱い、または見られない赤色とオレンジ系の「ファイヤー・オパール」はカボションカット以外にファセットカットにも用いられ、プレシャス・オパールとして高く評価されています。ハリスコ州はメキシコオパールの主要な原産地として知られています。
ブラジル
ブラジル産オパール
ピアウィ州には細かいきらめきの多彩な遊色を示す乳白色のオパールが、リオグランデスル州には岩石の表面に薄く付着した透明感のあるオレンジ色の「ファイヤー・オパール」や青色とパープルの美しい遊色を表すオパールが産出されています。
エチオピア
▲エチオピア産オパール
近年発見された最も若い鉱山として世界に知られ、遊色効果のある黄褐色のオパールや透明感の高いクリスタルのようなライトオパールやメキシコ産ファイヤー・オパールに似たようなオパールが大量に産出されています。しかし、粒子の積層構造に空間が多く、水の吸収や乾燥によって脱水反応が激しく、ひび割れが発生してしまうなど、長く美しさを保ちにくいことがあります。
オパールは個性的で、7色の虹色の美しい遊色の変化が、美しさを評価する最も大切な要素です が、遊色の色種類(赤、オレンジ、グリーン、青の順にプレミアムがつく)やモザイクパターン、色の強 弱と輝き、全体の鮮やかさをみて、その美しさを総合的に判断する必要があります。特に日本で は、「ブラック・オパール」が好まれますが、一つ一つ異なる形と輝きを感じることはオパールの最大の魅力です。
執筆
阿依 アヒマディ
理学博士・FGA。国際鉱物学会(IMA)宝石素材委員会日本代表。国際宝石学会理事。京都大学理学博士号取得後、全国宝石学協会 研究主幹を務め、2012年にGIA Tokyoラボを立ち上げる。現在はTokyo Gem Science社の代表およびGSTV宝石学研究所の所長として、宝石における研究、教育セミナー、宝石鑑別などの技術サポートを行っている。宝石の研究、鑑別に関して日本を代表する宝石学者。