(番組ガイド誌「ジュエリー☆GSTV番組表」 2017年12月号掲載)
アヒマディ博士のジュエリー講座 Vol.16
宝石の科学―多彩なガーネット一族
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▲ガーネットは一般的に斜方12面体の
整った形で産出されます。
宝石の元祖ともいえるガーネットは、ざくろ(石榴)のように赤い色で、真実・友愛の象徴と言われています。ガーネット(和名:ざくろ石)は世界中から産出されていますが、時には国の象徴石(ボヘミア、ロシア、アラスカ)や宮廷をはじめ貴族たちに欠かせない宝飾品として愛される一方、ダイヤモンドを含む岩石(キンバライト)の指標ともなります。
ガーネットが高価な貴石として非常に重要な位置を占めている理由は、多彩な色(赤・オレンジ・黄・緑・褐・黒・無色)非常に高い透明度、そしてダイヤモンドのような輝きによるためです。その人気は現在も続いています。
ガーネットの一族
ガーネットは、特定のひとつの石の名前ではなく、ガーネットの系統をすべて含めた一族の総称です。ガーネットは自然界で固溶体(2種類以上のガーネットが互いに溶け込み、出来上がった新たな成分からなる混合体)として存在し、化学成分により16種に分けられますが、中でも宝石品質にあたる代表的なものが下記の6種です。すべてのガーネット種の結晶構造は基本的に共通で、構造中に取り込まれる成分は少しずつ異なり、さまざまな色や特性値(屈折率、比重、分光性)を生み出します。
赤色系のガーネット(パイラルスパイト系統)
1:パイロープ・ガーネット
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▲パイロープ・ガーネット
鉄やクロムで着色された血の様な赤色を示すガーネットで、ギリシア語の「ピロス」(火)を語源とし、ルビーより暗く、結晶インクルージョンが良く含まれ、火山岩中や漂砂鉱床に産出します。結晶のサイズは比較的小さく、2ctを越えるファセット・カット石は少ないです。チェコのボヘミアがパイロープの古い原産地として知られていますが、現在は、アメリカ、南アフリカ、オーストラリア、ブラジル、ミャンマー、タンザニアなどで産出されています。
2:アルマンディン・ガーネット
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▲アルマンディン・ガーネット
赤系ガーネットの中で最も多く産出されるもので、パイロープよりも赤みが濃く、鉄の含有量が高いため、黒っぽく見えます。ピンク色がかったものもあり、針状インクルージョンが石の透明度を低下します。アルマンディンは、雲母片岩から10センチを超える12面体の自形結晶がよく産出されます。東アフリカ、アメリカそしてオーストリアなどの地域が産地として知られています。
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▲ロードライト・ガーネット
パイロープとアルマンディンの中間成分を含んだ固溶体で、パイロープは全体の70%を占め、アルマンディンが30%を有します。独特な紫がかった赤色で、ギリシア語でバラを意味するロード(Rhodo)が語源になりました。ワイン色の宝石として、赤系ガーネットの中で最も人気です。1882年にアメリカのフロリダ州で発見されましたが、その後ロシアではウラル山脈から産出され、帝政ロシアの象徴石となりました。
3:スペサルティン・ガーネット
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▲スペサルティン・ガーネット
オレンジ赤色、帯紫赤色、帯赤褐色などの色を示すマンガンを含有するガーネットで、純度が高ければ明るいオレンジ色で、鉄の含有量が多くなるにつれ、暗いオレンジ色から赤色になります。ドイツのスペッサルト地域が産地として知られたため、この地名から命名されました。
ナミビア北部の片麻岩から産出されるスペサルティンは 「マンダリン・ガーネット」と呼ばれ、一段高い分散度を示し、最も人気なガーネットとして愛用されています。また、花崗岩質のペグマタイトや漂砂鉱床中にあり、ナイジェリア、スリランカ、マダガスカル、ブラジル、ミャンマー、アメリカなどで産出されています。
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▲カラーチェンジ・ガーネット
スペサルティンとパイロープの固溶体で、アレキサンドライトのような変色効果を示し、自然光では青紫色に、白熱光では赤色に変化します。
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▲マラヤ・ガーネット
パイロープとアルマンディン成分を含んだローズ・ピンクまたは桃色のようなスペサルティンはタンザニアのウンバ川付近で発見され、コマ-シャルネームとして「マラヤ・ガーネット」(別名ウンバライト)と呼ばれています。
緑色系のガーネット(ウグランダイト系統)
4:グロシュラー・ガーネット
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▲グロシュラー・ガーネット
グロシュラーの一般的な色相は緑色と思われがちですが、実際には他の色相もあり、無色、黄色、ゴールデン、オレンジ、グリーンなどです。褐赤色や橙赤色などのものは「ヘソナイト」と呼ばれます。微量なクロムとバナジウムで着色されたグリーン・グロシュラー・ガーネットは二種類に分類され、透明な単結晶と、半透明な黒点状の磁鉄鉱インクルージョンを含むヒスイに似たようなものがあります。1960年に、ケニヤのツァボ国立自然公園に透明な宝石質のグロシュラーが発見され、ツァボライトと呼ばれるようになりました。南アフリカで産出されたグロシュラーはほとんどが半透明で、ビーズなどの装飾品に使われます。
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様々な色相のグロシュラー・ガーネット。
褐赤色や橙赤色などのものは「ヘソナイト」と呼ばれる。
5:アンドラダイト・ガーネット
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▲上からデマントイド・ガーネット
アンドラダイト・ガーネット
トパーゾライト・ガーネット
黒いざくろ石と呼ばれてきましたが、鉄を多く含むアンドラダイトにもさまざまな色相があります。黄緑色~緑色のものは「デマントイド」、褐緑色のものは「アンドラダイト」、黄色ものは「トパーゾライト」、黒色のものは「メラナイト」と呼ばれています。ガーネットの変種の中でアンドラダイトは最も高い屈折率を有し、ダイヤモンドよりも分散度が高く、独特な色合いを示します。クロムと鉄成分を含む「デマントイド」は一番高価なガーネットといわれ、1860年からロシアのウラル山脈で採掘されています。
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▲マリ・ガーネット
グロシュラーとアンドラダイトが混じり合い、赤色系ガーネットと同様に連続固溶体となり、その中間タイプは「マリ・ガーネット」と呼ばれ、緑黄色を呈します。
6:ウバロバイト・ガーネット
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▲ウバロバイト・ガーネット
多くのクロムを含むため、エメラルドのような明るい緑色です。同じロシアのウラル山脈の蛇紋岩中から算出されます。結晶のサイズが小さく、硬度ももろいため、宝飾品には向きません。
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執筆
阿依 アヒマディ
理学博士・FGA。国際鉱物学会(IMA)宝石素材委員会日本代表。国際宝石学会理事。京都大学理学博士号取得後、全国宝石学協会 研究主幹を務め、2012年にGIA Tokyoラボを立ち上げる。現在はTokyo Gem Science社の代表およびGSTV宝石学研究所の所長として、宝石における研究、教育セミナー、宝石鑑別などの技術サポートを行っている。宝石の研究、鑑別に関して日本を代表する宝石学者。