(番組ガイド誌「ジュエリー☆GSTV番組表」 2017年5月号掲載)
アヒマディ博士のジュエリー講座 Vol.9
宝石の科学―エメラルド(三)20世紀におけるエメラルドの採掘と著名な産出地
エメラルドはベリル鉱物の緑色を呈する変種で、クロムとバナジウムにより色味が形成されています。この二つの元素は地殻の深部に存在し、非常に複雑な地下火山活動によって互いに出会い、エメラルドの美しい深い緑色がうまれたのです。エメラルドは産地によって色味や内包物も違っています。その産地の特徴を把握できると、品質の評価と価値判断に大きく役に立ちます。国際的に評判の高いエメラルドの産出地としては、南米のコロンビアとブラジル、アフリカのザンビア、ジンバブエ、中央アジアのアフガニスタン、パキスタン、ウイグル、そしてロシアなどが上げられます。今回は以下に、世界三大エメラルド産出国について紹介します。
最高品質のエメラルドの産出地―コロンビア
▲コロンビア産エメラルド
新世界と呼ばれた南北米大陸にあるコロンビアで、より高品質で大量のエメラルドが見つかる1520年代までは、エメラルドの主な産地はエジプトでした。スペイン人の征服により、原住民の手からエメラルドを奪い、1537年からChivor(チボール)鉱山を支配するようになりました。その30年後に、Muzo(ムゾー)の町で新たに鉱山の採掘を始めました。コロンビアのエメラルドは、東コルディエラとして知られている山脈内の2本のベルトから採掘されます。西部には、Penas Blancas(ぺナ・ブランカ)、Cosquez(コスケス)、La Pita(ラピタ)、MuzoおよびYacopi(ヤコピ)採掘地域があり、東部では、ChivorとGachala(ガチャラ)鉱山が主な産出地となっています。
▲コロンビア コスケス鉱山
▲コロンビア産
トラピッチェ・エメラルド
コロンビアのエメラルドは熱水堆積鉱床から結晶化し、頁岩と石灰石に存在しています。それらの鉱山から産出された良質のエメラルドは、青色の少ない緑色を呈し、ムゾー鉱山は最大級でかつ最高品質の濃緑色のエメラルドの産出地と評価されています。コスケス鉱山のエメラルドは、やや淡い緑色が特徴です。東部チボール鉱山のエメラルドは透明度がよく、青色がかった緑色が特徴です。1960年代と1970年代に、ぺナ・ブランカから6本アームを持つ星のような美しいトラピッチェ・エメラルドが多く産出され、世界中で評判になりました。コロンビア産エメラルドの品質は世界的に最も評価が高いですが、鉱山へのアクセスは大変不便で、老化鉱山への投資と機械化の不足、地質学の探検が抑制されているため、生産性が低下しています。今後、国の政策に期待したいところです。
20世紀に開発されたエメラルドの産出地―ザンビア
1931年に中央アフリカのザンビアでエメラルドが発見され、エメラルドの産地としてコロンビアに次に重要です。Kafubu(カフブ)地区はアフリカ最古のエメラルド鉱区の一つであります。ペグマタイトとタルクマグネタイト片岩を母岩とし、黒雲母を内包物としてエメラルドの結晶に取り込まれ、透明度が高く濃い緑色が特徴です。良質のものがよく産出されますが、傷の多い原石をオイルや樹脂を含浸させて透明度を改善し、美しく見せるものも増えています。
カフブ地域では、非常に小規模で地元の人々により運営されている鉱山もあれば、MIKU社や上場企業である採鉱会社のGemfields-KAGEMのように非常に大規模な鉱山もあります。後者は、世界最大のエメラルドの採鉱ピットです。 その鉱山からの産出量は、世界の 20%を占めています。近代化そして組織化されることにより、KAGEM鉱山からの鉱石取扱量は月次で125,000~750,000トンに増加しています。また、Solwesi(ソルウェシ)州の Musakashi(ムサカシ)地域に小さな採掘現場があり、コロンビアのエメラルドを彷彿させる色と、興味深い内部特徴を持つエメラルドが産出されています。
▲ザンビア カフブ地区(写真提供:GIA)
▲ザンビアのエメラルド原石(写真提供:GIA)
世界主要なエメラルドのサプライヤー ―ブラジル
1960年代に、南米のブラジルから相次ぎ豊富なエメラルド鉱山が発見され、エメラルド・ラッシュが始まりました。重要な鉱区がいくつかあり、各鉱山で産出したエメラルドには異なる特性があります。採掘場によって供給は異なりますが、全体的に安定であり、世界の主要なサプライヤーとして活躍しています。
Bahia(バイーア)州の鉱山はブラジル初のエメラルドの産出地として、大量の透明度の低い、青みがかった緑色のエメラルドを産出していますが、少量のファセットカットと大量のカボション、ビーズそして彫刻品を提供して来ました。 1981年に、Goiás(ゴイアス)州のSantaTerezinha de Goiás(サンタ テレジーニャ デ ゴイアス)地域から小さめのエメラルド結晶を大量に産出していますが、1立方メートル当たりの産出品位が高く、他の鉱山のエメラルドと比べて透明度のよい結晶が多く産出されています。また、キャッツ・アイやスターエメラルドはこの鉱山の特産品です。1979年に、ミナスジェライス州にあるItabira(イタビラ)とNova Era(ノバエラ)鉱区から、ブラジルのエメラルドにおいて最も高品質のものを供給するようになりました。イタビラ鉱山から色の暗い上質のものを安定的に生産し、一方、ノバエラでは、最も設備の整った機械化された二つの採掘鉱区があり、Montebello(モンテベロ)とBelmon(t ベルモント)鉱区からは優れた品質の大きなエメラルドが提供しています。また、新たにPiteiras(ピテイラス)鉱山が発見され、今後の重要な産出地のひとつになる可能性があります。
▲ベルモント鉱区 露天採掘場
▲ブラジル産エメラルド
21世紀に入ってから、世界各国からエメラルドの産出量は激減していますが、また新たな発見地であるエチオピアも期待したいです。それぞれのエメラルドは工夫が一所懸命に手作業で採掘した、自然からの宝物であるため、是非大切にしていただきたいと思います。
執筆
阿依 アヒマディ
理学博士・FGA。国際鉱物学会(IMA)宝石素材委員会日本代表。国際宝石学会理事。京都大学理学博士号取得後、全国宝石学協会 研究主幹を務め、2012年にGIA Tokyoラボを立ち上げる。現在はTokyo Gem Science社の代表およびGSTV宝石学研究所の所長として、宝石における研究、教育セミナー、宝石鑑別などの技術サポートを行っている。宝石の研究、鑑別に関して日本を代表する宝石学者。