アヒマディ博士のジュエリー講座 Vol.10
宝石の科学―ダイヤモンド(一)

ダイヤモンドの由来と性質

 宝石の王者として知られるダイヤモンドは宝石としてすべての条件(美しさ、希少性、硬度、化学的な安定性)にトップクラスで満たしたものです。名前の由来はギリシャ語の“アダマス adamas(征服されざるもの)”に派生しており、和名では金鋼石と呼びます。

人類がダイヤモンドと出会ったのは、紀元前4世紀のインドです。その後、ヨーロッパにもたらされるダイヤモンドは長い間、インド産のみでした。1725年にブラジルの砂金採掘現場からダイヤモンドが発見され、世界最大の供給源として注目されました。1866年の南アフリカ(オレンジ川流域)におけるダイヤモンドの発見は、ダイヤモンド・ラッシュを生みました。その後、はじめてのパイプ鉱床(以前はすべて漂砂鉱床でした)である、キンバレヤ鉱山が発見され、これによりダイヤモンド・シンジケートが確立していったのです。

南アフリカ産ダイヤモンドの原石
▲南アフリカ産ダイヤモンドの原石

 46億年の地球の歴史の中で、さまざまな鉱物は、マグマや水溶液やガスなどから、温度と圧力の条件を満たすことによって形成されました。ダイヤモンドは地球誕生後、20億年を経てから、地下150kmより深い高温高圧のマグマの中で結晶化しました。唯一の単元素-炭素から構成された宝石で、単純であるが不思議な性質をもつ鉱物です。ダイヤモンドを構成する炭素は共用結合しているので、強い結合力を持ち、地球上で最も硬い物質であります。屈折率は2.417に達し、等軸晶系であるため、どの方向でも高い輝き(ブリリアンシー)を生みます。そして分散度(ディスパージョン)も0.044であり、美しい虹色の輝き(ファイア)を生みます。光の全反射と分散の効果をうまく利用して、ダイヤモンドは内部から虹のような色を湧き出させるようにカットされます。宝石としての性質が優れているだけでなく、工業用素材としても重要です。ダイヤモンドは熱伝導性が高く、銀のおよそ5倍です。ダイヤモンドには不対電子がないため、電気を通しませんが、ボロン(ホウ素)を含むブルーダイヤモンドのみが半導体の性質を持ちます。一部の宝石は日常生活で使われる酢や薬品、洗剤、気体(酸素、炭酸ガス、硫化水素)などと反応して表面が分解してしまい、輝きが見えなくなりますが、ダイヤモンドはどんな酸やアルカリ溶液にも冒されなく、耐久性はトップクラスであります。ただし、大きな火事のように酸素のあるところで高温になると、表面から炭素ガスとなって消え、酸素の無い場合は、石墨に変わってしまいます。

ダイヤモンドの誕生

ダイヤモンドの形成深度
▲ダイヤモンドの形成深度


 ダイヤモンドは、高温高圧の環境下で成長します。安定的に生成するには、地下150kmより深い深度(4万5千気圧に相当する)と、1100度以上の温度が必要です。われわれが生活している地表(1気圧、20度)は、ダイヤモンドとして存在するには不安定な領域です。地下からゆっくりとマグマと一緒に上がってくると、石墨に変わってしまうでしょう。つまり、ダイヤモンドはきわめて短時間で、とてつもない早いマグマの上昇によって地表に運ばれているのです。運び屋としてのマグマ(キンバーライト)は、ダイヤモンドの生成領域(140~250km)よりも深いところで発生したと考えられます。最近の研究では、多くの大粒のダイヤモンドは深さ700kmほどのところで生成されると結論づけています。

ダイヤモンドを地下から運ぶキンバーライトのパイプ
▲ダイヤモンドを地下から運ぶキンバーライトのパイプ
ダイヤモンドの炭素原子の配列と石墨の炭素原子の配列

左:ダイヤモンドの炭素原子の配列
右:石墨の炭素原子の配列

ダイヤモンドの結晶形

ダイヤモンドのさまざまな結晶系
▲ダイヤモンドのさまざまな結晶系
(写真提供:GAAJ)

 ダイヤモンドの原子配列から見ると、結晶構造は立方体であります。実際に地層から産出された形は、平らなピラミッド面で囲まれた八面体が圧倒的に多く、これがダイヤモンドの理想形です。そのほかの形としては、八面体と立方体の組み合わせでできた十二面体結晶があります。結晶面には、溶解作用による結果と思われるサークル状や網目状の模様が現れます。六面体のダイヤモンドはまれにしか出現しないのですが、マグマの温度が低下すると、このような結晶が生まれると考えられ、成長深度は地下100kmあたりと推定されています。以上の結晶形以外に、三角形のダイヤモンド双晶や結晶面が発達しない不規則な球状結晶もあります。

アヒマディ博士

執筆

阿依 アヒマディ

理学博士・FGA。国際鉱物学会(IMA)宝石素材委員会日本代表。国際宝石学会理事。京都大学理学博士号取得後、全国宝石学協会 研究主幹を務め、2012年にGIA Tokyoラボを立ち上げる。現在はTokyo Gem Science社の代表およびGSTV宝石学研究所の所長として、宝石における研究、教育セミナー、宝石鑑別などの技術サポートを行っている。宝石の研究、鑑別に関して日本を代表する宝石学者。

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