(番組ガイド誌「GSTV FAN」 2018年10月号掲載)
イーダーオーバーシュタインの宝石彫刻 第2章 -11-
親子で大作彫刻に取り組んできた Roth工房
親子二世代で活躍する彫刻家はこれまで何人かご紹介いたしました。今回はGSTVでも「ロートさん」としてお馴染みのRoth工房についてご紹介します。親子二世代が力を合わせて作品を彫刻していますが、Roth工房の歴史を紐解くと、今は亡き歴代作家の系譜が見えてきます。
Hans Dieter Roth(1948-) ハンス・ディーター・ロート
「現代カメオの父」と呼ばれ後世の作家たちに多大な影響を与えたアウグスト・ヴィルド氏(1891-1956)。彼の技術を受け継いだリチャード・H・ハーン氏(1917-1999)(ともに2014年5月号でご紹介)の育てた彫刻家の一人で、忠実に彼のスタイルを受け継いでいるのがハンス・ディーター・ロート(1948-)です。1963年からリチャード・H・ハーン工房で彫刻の修行を積み、彫刻技術を習得しただけでなく、様々な原石や彫刻作品に触れていく中で、素材をどう活かせば素晴らしい作品ができるかという視点を習得しました。マイスター試験の試験官も務めていた経歴もあり、後進の育成にも大いに貢献してきました。
天然の素材の持ち味を活かした表現力と創造性には定評があり、12年の年月をかけて1998年に完成させた大作カメオ「The Bible in Stone(石の聖書)」48点には圧倒的な迫力があります。また、2008年には「Shakespeare in Stone(シェイクスピア戯曲)」28場面を5年かけて彫刻しました。ストーンカメオの材料となるのは天然メノウに結晶化した白い層が入った縞メノウですが、Roth工房のこれらの大作はその形状、色、層の厚みが多岐にわたり、見る人の心を動かします。これほどまでにバラエティに富んだ大作は非常に珍しく、希有な存在です。息子であるアンドレアス氏に工房運営を譲ったためハンス・ディーター・ロート氏は現在彫刻を行っていませんが、私もプロジェクトに深く関わらせていただいた「エイシェントシリーズ」は、今でも多くのファンを魅了しています。
▲ 作品集「シェイクスピエア戯曲」
「石の聖書」
▲ 作品集を見せてくれるRoth親子
▲ 「地球儀と盾を持つローマ」
Andreas Roth(1973-) アンドレアス・ロート
1989年から1993年まで父ハンス氏のもとで彫刻を学び、1993年にはドイツ政府青年職人実技競技会のカメオ彫刻部門にといて優勝をおさめた彫刻家です。現在45歳の彼は、メノウカメオや宝石彫刻に取り組みRoth工房を運営するマイスター彫刻家です。カメオ彫刻家を目指す若者が少なくなる中で、カメオ彫刻技術の伝統を継承するため、自ら彫刻の道を選びました。
1999年にマイスター試験に合格してからは、父ハンス氏との共同制作に取り組み、父の類まれな技術を習得していきました。2012年には縞メノウの両面に彫刻されている世界最大級のカメオと称される「ファウスト」を発表しました。近年では小動物などの立体彫刻にも取り組み、ミュンヘン宝石フェアに出展するなど、積極的にRoth工房の作品のプロモーションをしています。
▲ 大きな原石を見せてくれるアンドレアス氏
▲ アンドレアス氏のマイスター試験合格証書
技術と伝統の継承
Roth工房の代表的な大作である「Shakespeare in Stone(シェイクスピア戯曲)」は、5年の歳月をかけて父ハンス氏と息子アンドレアス氏が共同で行ったプロジェクトです。共同といっても一つの作品群をともに製作するのは簡単なことではありません。例えば、工房を掃除したり、工具を整えたり、原石を磨いたり、これらもプロジェクトにおいては大切な仕事のひとつです。しかし、アンドレアス氏は父ハンス氏の作品作りを「補助した」のではなく、彫刻部分において父の指導を受けながら取り組んでいったのです。
Roth工房と親交のある芸術家Dr. Armin Peter Faust(アーミン・ペーター・ファウスト氏)(1943-)は次のように語っています。「この若きマイスターは1998年以来、彼の彫刻技術を飛躍的に革新改良させ、その技量をもってカメオ史上比類なきシェイクスピアプロジェクトの彫刻構成も部分的に父親に代わって受け持った。若人特有の自己認識は、彫刻技術の難しい問題に挑戦するだけでなく、絶妙なる技として習得熟達した」
技術と伝統の継承が難しい宝石彫刻、カメオ彫刻の分野において、次世代にスムーズにバトンをパスしているRoth工房は、これからも素晴らしい作品を世に送り出してくれることでしょう。
※2015年11月号「イーダー・オーバーシュタインの宝石彫刻(5)で掲載したものを一部変更して掲載しております。
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