(番組ガイド誌「GSTV FAN」 2019年7月号掲載)
アヒマディ博士のジュエリー講座 Vol.35
人類の最初の宝石 「ラピスラズリ」
ラピスラズリは、6500年前に人類によって宝石として使われ始め、エジプト、メソポタミアなどの古代国家や、ギリシア、ローマ、インド、中国などの文明においても大変珍重されてきました。サファイアにも似た鮮やかなブルーを呈するこの青い宝石は、ビーズやカボション、不定形の宝石カットに限らず、何千年も前から現在に至るまで、彫刻品や短剣のハンドル、お守り、千仏像の壁画の顔料、さらには化粧品などに使われてきました。
ラピスラズリは、宝石として、また聖石や魔よけ石として、世界で最も古くから愛用されており、トルコ石と共に12月の誕生石になっています。和名では瑠璃(るり)と呼ばれています。
語源から見ると、「ラピス-Lapis」はラテン語で「石」、「ラズリ」はペルシャ語の “Lazhward(青い空を意味する)”に由来したものです。アフガニスタンの北東部のバダクシャン州はラピスラズリの最大の産地であり、現在のトルキスタン南部に当たります。紀元前700年から、今日まで採掘し続けられてきた世界最古の鉱山でもあります。その他の産地としては、産出量は少量ですが、ロシアのシベリア、チリ、カナダ、アメリカなどが挙げられます。
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の原石
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ラピスラズリの原石
(Pala Internationalから引用)
ラピスラズリは多種鉱物でできた岩石
ラピスラズリは翡翠と同様に数種類の鉱物の凝集体で、接触変成作用でできた岩石です。主に三つの鉱物から構成され、小さな12面体のラズライト(方ソーダ石グループに属する;青金石(Na8-10Al6Si6O24S2))が主成分で、カルサイト(方解石)とパイライト(黄鉄鉱)と混合しています。また、少量のダイオプサイド(透輝石)や長石や角閃石や雲母などが含まれる場合があります。ラピスラズリの色の、ほとんどは鮮やかなロイヤルブルーのラズライトによって形成されています。
ラピスラズリの原石を見ると、カルサイトが筋状に混じり合い、ところどころにキラキラとした黄金色のパイライトが斑点状に点在しています。
ラピスラズリは半透明から不透明で、典型的な色はブルー・サファイアに見られるようなロイヤルブルーや明るいブルーです。別の色合いとして濃いバイオレットブルーもあります。高品質のものはカルサイトとパイライトが少なく、ボディカラーが均一で、明度は中からダーク、さらに高彩度のものに限られます。小さなパイライトの散在によって形成された、魅力的な模様も高く評価されます。しかし、大粒のパイライトと筋状のカルサイトの分布が多すぎると、鉱物の組み合わせによって全体の色合いが鈍い青色の色相に見え、価格も低下します。
硬度が5~6のモーススケールであり、耐久性が強く、装飾彫刻品や置物にもとても向いている石材料です。容易に加工ができ、中央アジア、中国そして日本でも様々な彫刻品に使用されています。
また、ラピスラズリの粉末は、古くから青色の顔料として使用され、水やアセトンなどに溶けにくく、色も落ちにくく、煌々とした青色を放つため、仏教の石窟の壁画やイスラム教のモスクの壁に用いられました。今も絵具として欠かせない高価な顔料です。
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ラピスラズリの選び方
ジュエリーとしてのラピスラズリは、フラットカットやカボションカットとして多用されます。石全体に濃いブルーが均一に広がった、不純物のないものが最高品質の条件です。フラットカットにした、ペンダントやメンズリングがおすすめです。次点のものはカボションカットにされる場合が多く、白色のカルサイトが少なくて、小粒の黄金色のパイライトがバランスよく入ったものは安価で購入することが賢明です。サイズの判断はカラットではなく、2~3グラム以上のものが目安です。また、傷の多いものはアクセサリーに使われています。
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トップ
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執筆
阿依 アヒマディ
理学博士・FGA。国際鉱物学会(IMA)宝石素材委員会日本代表。国際宝石学会理事。京都大学理学博士号取得後、全国宝石学協会 研究主幹を務め、2012年にGIA Tokyoラボを立ち上げる。現在はTokyo Gem Science社の代表およびGSTV宝石学研究所の所長として、宝石における研究、教育セミナー、宝石鑑別などの技術サポートを行っている。宝石の研究、鑑別に関して日本を代表する宝石学者。