(番組ガイド誌「GSTV FAN」 2019年1月号掲載)
アヒマディ博士のジュエリー講座 Vol.29
世界最古の宝石の一つ「トルコ石」
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5000年もの歴史のある世界最古の宝飾品の一つであり、人に幸せを与えると考えられてきたトルコ石は、美しく深い空色と青緑色を示し、古代エジプト、アステカ、マヤ、中央アジア、アメリカ先住民などに愛され、着用されてきました。メソポタミアのイランで生じて、ギリシアでは「カライナ」、ローマで「カレイズ」と呼ばれてきました。「トルコ石」と呼ばれるようになったのは13世紀でした。主産地であるイランやシナイ半島からトルコ経由で地中海を経てフランスに持込まれたことで、“トルコの石”という名称が誕生したのです。トルコ石は、12月の伝統的な誕生石です。
トルコ石のでき方
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▲ 火成岩の一種である斑岩の隙間に堆積
したトルコ石の鉱脈
トルコ石は、地球上でごく限られた場所にしか発見されません。トルコ石は二次鉱物であり、酸性の水溶液が地下に浸透し、すでに形成された銅を含む黄銅鉱や孔雀石などを溶かし、そして周囲の火成岩中の長石からアルミニウムを、燐灰石からリンを取り寄せ、溶解液の冷却とともに化学反応が起こり、火山岩の隙間に沈殿しながら、隠晶質(単結晶ではない)の多孔性質を持つ半透明から不透明なトルコ石が出来上がります。一般的に、トルコ石の表面には斑点状の黄鉄鉱や黒い筋状の褐鉄鉱がよく見られ、非常に乾燥した地帯にトルコ石の鉱床が分布しています。
鉱山では地表に近い数十メートル以内の地層において、母岩にクモの巣の網目のような状態で見つかります。銅で着色された鮮やかな青色や青緑色を示していますが、鉄の含有量が増えれば、色は緑に変化していきます。
品質とカット
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▲ アメリカ先住民Hopiと呼ばれる
インディアンが使用していた装飾品
古代からトルコ石は自然界でできた姿のままで宝飾品に使われてきましたが、最も貴重な色はやはり、マトリックスのない色が均一で緑がかった青色です。強いミディアムブルーがデザイナーに最も求められ、消費者からも好まれています。その一方、アメリカ先住民の宝飾品のような、石碁のあるクモの巣のような模様を好きな方も多く、大変魅力的と思われています。トルコ石は一般的に不透明なものが多く、斑点の少ないマトリックス模様が走っていない素材は研磨に強く、品質が高いと評価されます。
トルコ石は通常カボションやビーズのような形にカットされます。母岩を回避しながら色を最大限に美しく立たせます。品質の良いトップカラーのものがドーム状の形で素晴らしい宝飾品にはめ込められ、人気商品に仕立てられます。テクスチャーの明瞭なものは、あえてその自然な成長模様を強調し、円形のビーズや彫刻品に研磨仕上げをします。「ナゲット」と呼ばれるトルコ石は人気商品の一つです。サイズに関しても、どんな大きさであれ、色の均一さ、色の濃さ、品質は価値を決める最も重要な要因です。
トルコ石の耐久性処理
トルコ石は多孔質であるため、脱水―吸着性があり、耐久性が低くなったり、変色したり、汚れが付着したりして、不安定な要素が多いです。そのため、トルコ石の持久性を向上するため、古くから無色のオイルやワックスを原石の表層に浸み込ませて美観を与えてきました。しかし、熱や日照によって、オイルやワックスが溶け出してしまうケースが多いのです。近年、より安定させるための処理法が開発され、品質を向上させています。
1:スタビライズ法
硬度の弱いトルコ石をエポキシ樹脂やアクリルプラスチックに長時間入れて、じっくりと石の深部までに浸透させ、長持ちさせる処理法です。品質はオイルやワックスよりはるかに安定しています。
2:化学処理法(別名:ザッカリ処理)
1980年代にジェームズ・ザッカリというトルコ石の商人によって発明された、カリウムを含む水ガラス(珪酸ソーダの水溶液)を用いて石の品質を改善する手法です。三週間から六週間かけて化学溶液により処理されたトルコ石の品質は、オイルや樹脂などによって含浸処理されたものよりも、酸化されにくく、変色しない上、石の彩度と硬度も増し、好評な改善処理法です。
世界における名産地
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▲ 歴史的に著名なトルコ石の産地ー
ネイシャブルと母岩に含まれる原石
トルコ石は古代からエジプト、ペルシャ(現イラン)、アメリカそして中国から何世紀にも渡って採掘され、取引され、人々を魅了してきました。
しかし、資源の枯渇により、エジプトのシナイ半島やイランのネイシャブル、アメリカのニューメキシコ州の南西部やアリゾナ州のスリーピングビューティーなどの鉱山は次々と閉鎖されました。現在稼動しているエリアは非常に限られています。
イラン
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▲ 斑点模様を含むイラン産
トルコ石の馬彫刻品
(Bahareh Shirdam提供)
世界最高品質のトルコ石の産出国として古くから知られ、トルコ経由でヨーロッパに最初に渡りました。北部のマシュハド地域にあるアリ・メリサイ鉱山からスカイブルーから濃いブルーのトルコ石が産出され、硬度も高く(5〜6)、耐久性は他の産出国より優れ、長期間変色しないものが多かったのですが、100箇所の採掘現場はすでに閉山となっています。最近イランの中南部のケルマン(Kerman)地域に品質の良いトルコ石が再び発見され、今後のマーケットに大いに期待できると思われます。
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▲ イランに分布するトルコ石の鉱山
アメリカ
アメリカ産トルコ石の鉱山はほぼ西部(カリフォルニア州、ネバダ州、コロラド州)と南西部(アリゾナ州、ニューメキシコ州)に集中し、紀元前300年前から先住民であるインディアンがトルコ石を装飾品にし、メキシコと貿易が行われ、トルコ石文化の中心地となりました。大部分のアメリカ産トルコ石の色は淡く、低品質のチョーク状のものが多いのですが、アリゾナ州のスリーピングビューティー鉱山では僅かにですが鮮やかなブルーの上品質のものが産出されました。ネバダ州の「スパイダーウェブ, クモの巣状」と呼ばれるトルコ石は特徴的です。現在、アリゾナ州のキングマン鉱山は唯一商業的な規模で採掘されています。
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▲ アメリカで現在唯一商業規模で採掘し
ているアリゾナのキングマントルコ石鉱山
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▲ キングマン鉱山で最も多く産出される
チョーク状のトルコ石
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▲ キングマン産最高品質のトルコ石原石
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▲ アメリカのアリゾナ産のスリーピング
ビューティー鉱山から産出されたトルコ石
のブローチ
中国
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▲ 彫刻された中国湖北省産青緑色の
トルコ石
歴史的に古い産出国ですが、現在湖北省、河北省、安徽省、チベットなどで青色から緑色までのトルコ石が少量産出されています。柔らかいものが多く、彫刻品に加工されるケースが多いです。中国はトルコ石の世界最大の消費国です。
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執筆
阿依 アヒマディ
理学博士・FGA。国際鉱物学会(IMA)宝石素材委員会日本代表。国際宝石学会理事。京都大学理学博士号取得後、全国宝石学協会 研究主幹を務め、2012年にGIA Tokyoラボを立ち上げる。現在はTokyo Gem Science社の代表およびGSTV宝石学研究所の所長として、宝石における研究、教育セミナー、宝石鑑別などの技術サポートを行っている。宝石の研究、鑑別に関して日本を代表する宝石学者。