アヒマディ博士のジュエリー講座 Vol.28
黄金色の石「トパーズ」

トパーズ

 古代ギリシャとローマでは、トパーズは太陽や黄金の象徴でありました。昼も夜も光を放ち、男女ともに愛された宝石で、「探し求める(ギリシャ語でTopaziosトパツィオス)」、「悪魔払い」、「幸福」といった意味を指してきました。ただし、ペリドットの歴史的な名産地である紅海の島を「トパーズ」と呼び、次第に、古代ではペリドットを「トパーズ」と誤称するようになりました。近代においても、アメシストを加熱させて黄色にした「シトリン-黄水晶」もトパーズと混合され、シトリンが「シトリン・トパーズ」と呼ばれて多くの誤解を招きました。19世紀において、西洋宝飾品に欠かせない主石としてネックレスやイヤリングに嵌め、人気の非常に高い宝石でした。

トパーズとは

 アルミニウム(Al)、珪素(Si)、フッ素(F)でできたケイ酸塩鉱物で、ペグマタイト、花崗岩、流紋岩、結晶質石灰岩の空隙や割れ目の空間に産出します。和名は「黄玉」といいます。トパーズの色は黄色だけでなく、ピンク、オレンジ、橙~褐色、赤、青、無色などの色相があり、最も人気なのは天然のピンク、レッド、オレンジの三色が混合したトパーズです。ブラジルとパキスタンで極僅かに産出されますが、多くのものは褐色を加熱して美しいピンクにしたものです。「インペリアル・トパーズ」と呼ばれるピンク味や赤味の強いオレンジ色のトパーズは、ブラジルのドン・ペドロ皇帝に限りなく愛され、王冠に彩られていたので、「インペリアル」という言葉が使用されていました。同じ19世紀に、ロシアのウラル山脈にも赤ピンク色の濃いトパーズが発見され、皇帝を称えて「インペリアル・トパーズ」と命名されたという説もあります。

 トパーズは化学構造によって二つのタイプに分かれています。

赤オレンジ系のインペリアル・トパーズ

▲ 赤オレンジ系のインペリアル・トパーズ

1) 水酸基 (OH)を含むタイプ

 屈折率が高く、退色性もなく、ブラジルのミナス・ジェライス州産のレッド~ピンク・オレンジ系「インペリアル・トパーズ」やパキスタンのレッディッシューピンク系トパーズはこのタイプに属します。

一般的に照射処理を施されるFタイプのブルー・トパーズ

▲ 一般的に照射処理を施されるFタイプ
のブルー・トパーズ

2) フッ素を含むFタイプ

 多くのトパーズは大体このタイプで、無色、青色、褐色が含まれます。屈折率はOHタイプよりやや低く、長時間光に晒されると退色する可能性があるため、一般的に放射線照射が施されています。自然界で産出された淡い青色のトパーズはFタイプの代表的なものですが、色の濃い青色や緑色のトパーズはほとんどが無色のものを放射線照射したものです。

宝石としての品質

最上品質と評価されるオレンジ・ピンク・レッド色相を含むインペリアル・トパーズ

▲ 最上品質と評価される
オレンジ・ピンク・レッド色相を含む
インペリアル・トパーズ

インペリアル・トパーズの色選別

▲ インペリアル・トパーズの色選別

 トパーズは自然界で大きな結晶(巨晶)として産出される場合が多く、美しい結晶形は鉱物コレクターを大変魅了しています。モース硬度のスケールは8で、底面劈開があり、靭性もやや低く、カットや石留めなどの場合に特別な注意が必要です。宝飾職人はカットする際に、劈開方向をテーブルから十数度ずらしてファセット・カットを行います。また、「インペリアル・トパーズ」のような非加熱レッド・オレンジやオレンジ・ピンクは長時間に日光に晒されることや激しい温度の変化によって黄~褐色に変化する恐れがありますので、貴重な「インペリアル・トパーズ」はなるべくそれらから保護するようにおすすめします。

 最上質と評価されるトパーズは、非加熱のレッド~ピンク~オレンジが混合したインペリアル・トパーズとなります。ただし、産出量は非常に希少であるため、入手は極めて困難ですが、「インペリアル・トパーズ」は基本的に加熱処理はされませんので、自然から生まれたままの素晴らしい宝石です。内包物や傷が少なく、シトリンと比べ強い輝きを与え、黄色宝石として温かみのある最高の色相と彩度と品質を持ちます。「インペリアル・トパーズ」の色相の幅は広く、写真のようなオレンジーピンクからレッディッシュ・オレンジまでとなります。褐色味が少なく、明度は濃い目で、彩度が高ければ、格別な美しさが感じられます。3カラット前後の石はジュエリーに最適で、大粒の価値はさらに高く評価されます。また、上質ランキングに入る彩度の高いオレンジ色のトパーズをトレードネームとして「プレシャス・トパーズ」とも呼ばれています。

インペリアル・トパーズの色範囲とマスターストーン

▲ インペリアル・トパーズの色範囲とマスターストーン

世界の名産地

 18世紀以後、ロシアとブラジルはレッディッシューピンクやオレンジーピンクのトパーズの主な産出国でしたが、1980年代からパキスタンとアフガニスタンからも赤、オレンジがかったピンク・トパーズが産出され、その量は非常に少ないです。それから、ミャンマー、スリランカ、アメリカそして日本も淡い青色、黄色、無色のトパーズの産出国です。

アフリカのナイジェリア、Klein Spitzkoppe地域からの無色トパーズの結晶とファセット石

▲ アフリカのナイジェリア、Klein Spitzkoppe
地域からの無色トパーズの結晶とファセット石

アメリカのユタ州のThomas Mountain Rangeから産出する赤色を帯びたオレンジトパーズ

▲ アメリカのユタ州のThomas Mountain
Rangeから産出する赤色を帯びた
オレンジトパーズ

ブラジル

インペリアルトパーズの名産地、ブラジルのミナスジェライス州オウロ・プレト鉱山

▲ インペリアルトパーズの名産地
ブラジルのミナスジェライス州
オウロ・プレト鉱山

 ミナスジェライス州は「インペリアル・トパーズ」の世界最大の産地となっています。1735年にオウロ・ペレト(Ouro Preto)付近で発見されています。この地域の貫入した花崗岩と後から上昇した地下熱水と反応し、鉱脈が形成されています。この地域から産出されたトパーズにクロム元素が含まれ、赤味がかったオレンジが特徴です。一般的にペグマタイト起源のトパーズに水酸基が含まれず、フッ素を含んだFタイプのトパーズが多く形成されますが、オウロ・ペレト産のトパーズには多くの水酸基が含まれ、直接ペグマタイト性ではないことを示しています。このような赤オレンジ系「インペリアル・トパーズ」の原産地としてはオウロ・ペレトの鉱脈は世界唯一の場所であります。黄色や褐色などのトパーズを500度以下で熱すると、色は一旦消えて無色になり、その後の徐冷過程でピンクないし紫ピンクに変色します。

オウロ・プレト鉱山から産出された大変美しいトパーズの原石

▲ オウロ・プレト鉱山から産出された
大変美しいトパーズの原石

オウロ・プレト鉱山の選鉱プラント

▲ オウロ・プレト鉱山の選鉱プラント

ブラジルのミナスジェライス州のテオフィロ・オトニ地区から産出されたペグマタイト起源の天然ブルートパーズ

▲ ブラジルのミナスジェライス州のテオ
フィロ・オトニ地区から産出された
ペグマタイト起源の天然ブルートパーズ

一般的に加熱によって変色したピンクトパーズ

▲ 一般的に加熱によって変色したピンク
トパーズ

パキスタン

 1980年にパキスタン北西部のマルダン地方のカトラン渓谷に分布した結晶石灰岩の断層脈から鮮やかなピンク色のトパーズが発見され、ブラジルと同様に水酸基を含むOHタイプで、微量なクロム元素によって発色されたものです。天然のレッディッシューピンク・トパーズとして大変高く評価されていますが、産出量は非常に限られています。

パキスタンヒンズークシュ山脈とkatlang平原

▲ パキスタンヒンズークシュ山脈と
katlang平原

結晶質石灰岩に含まれるパキスタン産オレンジ-ピンクトパーズ原石

▲ 結晶質石灰岩に含まれるパキスタン産
オレンジ-ピンクトパーズ原石

赤ピンク色のトパーズはこのkatlang鉱山の炭酸塩中の断層隙間から採掘されます(撮影者Ikram, Friends of Minerals Forumから引用)

▲ 赤ピンク色のトパーズはこのkatlang
鉱山の炭酸塩中の断層隙間から採掘され
ます
(撮影者Ikram, Friends of Minerals Forumから引用)

ロシア

 歴史的に有名で、18世紀から19世紀にかけて、ウラル山脈南部のプラスト地域のカメンコ川沿いの漂砂鉱床から赤色がかった濃いピンク・トパーズが採掘され、王族に大変愛用されてきました。しかし、近年採掘された記録がないのですが、バイカル湖一帯に広大なペグマタイト鉱床があり、新しいトパーズ鉱床の発見に大いに期待したいところです。

アヒマディ博士

執筆

阿依 アヒマディ

理学博士・FGA。国際鉱物学会(IMA)宝石素材委員会日本代表。国際宝石学会理事。京都大学理学博士号取得後、全国宝石学協会 研究主幹を務め、2012年にGIA Tokyoラボを立ち上げる。現在はTokyo Gem Science社の代表およびGSTV宝石学研究所の所長として、宝石における研究、教育セミナー、宝石鑑別などの技術サポートを行っている。宝石の研究、鑑別に関して日本を代表する宝石学者。

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