(番組ガイド誌「ジュエリー☆GSTV番組表」 2017年9月号掲載)
アヒマディ博士のジュエリー講座 Vol.13
宝石の科学―カラーダイヤモンドとその色の起源(四)
誰もが憧れる無色透明なダイヤモンドは、国際的に権威である宝石鑑別・鑑定・教育機関-GIA(Gemological Institute of America)による4C(ダイヤモンドの等級付け)のうち、「D」カラーとして位置づけられています。Dカラーは完璧な無色であり、色として最高品質に評価されます。
本来、ダイヤモンドは炭素のみで構成された完璧な結晶であるはずですが、地球深部での成長過程で色々な不純物が入りこむことにより、結晶にさまざまな色をもたらしています。一般的に黄色や褐色のダイヤモンドは、圧倒的に多数産出されますが、青色、赤色、ピンク、紫色、緑色、オレンジのダイヤモンドの産出量は大変希少で、とても人気な石として世界市場に流通できないほど入手が困難で、無色のダイヤモンドよりも評価が高いことがあります。
カラーダイヤモンドとは?
自然界で生まれたダイヤモンドには、さまざまな色が存在します。基本的に無色(カラレス※)以外のダイヤモンドはカラーダイヤモンドと呼ばれ、ブルー、レッド、ピンク、パープル、バイオレット、グリーン、オレンジ、イエロー、ブラウン、ブラック、グレー、ホワイトなどの12色の種類があります。最初の8色はGIAのグレーディング(鑑定)評価の対象となっていますが、それ以外のブラウン、ブラック、グレー、ホワイトなどの色は等級付けをされていません。
ダイヤモンドの色は炭素(C)を置換する窒素(N)によってもたらされます。窒素は炭素より一個電子が多いため、結晶内部でバランスを取れない状態になります。結晶に空孔があれば、余分な電子が空孔に移行することにより、カラーセンターとなり、色を発するのです。ダイヤモンド結晶の成長段階に、炭素原子100万個に対して数十から数千個の窒素が結晶格子に取り込まれ、不完全なダイヤモンドになりますが、窒素原子の割合とその周囲の炭素原子の組み合わせによって、さまざまな色が作り出されます。また、地球深部(マントル)に極めて僅かな量が存在するホウ素(B)もダイヤモンドに取り込まれる場合があり、炭素原子1億個中にホウ素原子6個分が取り込まれると、青色が形成されます。そのため、カラーダイヤモンドの存在率は無色のダイヤモンドと比べとても低く、希少価値も必然的に高いのです。
※通常は「カラーレス」だが、宝石業界では「カラレス」と表記する。
▲ピンク色を形成する
カラーセンター(N-V)
▲ブルー色を形成する
カラーセンター(Bホウ素)
カラーセンター:
原子構造のゆがみ。結晶を構成する原子の規則的な配列の一部が欠けることにより、色づいて見える原因となるもの。
1:イエローダイヤモンド
▲イエローダイヤモンド
カラーダイヤモンドの中で最も多く出現しているのは、イエローダイヤモンドです。色の薄い黄色のものは、無色透明のダイヤモンドよりも評価が低く安価になりますが、鮮やかで美しい発色のものはファンシーイエローダイヤモンドと呼ばれ、無色ダイヤモンドよりも高値で取引されるケースが多いです。結晶格子に窒素1個がある場合には濃い黄色、3個の窒素原子と1個の炭素原子の欠陥が隣り合うと淡い黄色になります。
2:ピンク、レッド、パープルダイヤモンド
▲ピンクダイヤモンド
▲レッドダイヤモンド
市場で女性に最も人気なのはピンクダイヤモンドです。しかしその採掘量は非常に少なく、オーストラリアのアーガイル鉱山が主な産出地として知られていますが、1カラットレベルの石は年間十数個しかとれず、十数年後に資源枯渇に直面しています。ピンクダイヤモンドの中で、青みの強いものはパープルダイヤモンドと呼ばれ、赤みを強く呈するものはレッドダイヤモンドと呼ばれます。自然界で非常に極まれに存在し、ブルーダイヤモンドと同等かそれ以上の希少価値があります、大変高価なダイヤモンドとして知られています。ピンク色の形成要因は1個の窒素原子の隣に炭素原子の欠陥が生じる場合と、炭素原子配列にわずかな歪みが生じた場合です。
3:ブルーダイヤモンド
▲ブルーダイヤモンド
ホープダイヤモンドはブルーダイヤモンドとして最も著名で、スミソニアン博物館に陳列されています。産出量が極めて少なく、あまりにも希少な存在で、ブルーダイヤモンドを評価する標準相場は世界市場になく、無色のダイヤモンドよりも何十倍から何百倍の価値がつけられています。ホウ素原子をわずかに含むとブルーダイヤモンドになりますが、約1億個の炭素原子の中に、6個のホウ素原子が取り込まれると、ブルーが形成されます。
4:グリーンダイヤモンド
▲グリーンダイヤモンド
地球深部に存在する放射性元素による自然照射でできたグリーンダイヤモンドは、希少価値の高いファンシーカラーダイヤモンドです。若草のようなグリーンから深い森林のようなグリーンは人々を魅了しています。結晶格子中に、炭素原子の1個分を失い欠陥となった場合は青緑色と形成され、2個の窒素と1個の炭素の欠陥が結ばれたときに、アップルグリーンのような色になります。
5:オレンジダイヤモンド
▲オレンジダイヤモンド
パンプキンのような鮮やかなオレンジ色を呈するものを、オレンジダイヤモンドと呼びます。ピンクやブルーダイヤモンドよりは評価が低いですが、黄色味の少ないオレンジ色のダイヤモンドの産出は非常に希少で、ビビットイエローダイヤモンドより10倍以上の高価の値段がつけられています。色の起源は4個の窒素原子とそれに捕らえられた1個の炭素原子の欠陥によるものです。
6:ブラウンダイヤモンド
▲ブラウンダイヤモンド
ブラウンダイヤモンドは、カラーダイヤモンドの中では最も一般的に見られるものです。業界では、「コニャック」と「シャンパン」という名がつくられ、市場では買い求めやすい人気なカラーダイヤモンドとして知られています。ブラウンダイヤモンドといえば、やはりアーガイル鉱山から比較的豊富に産出されています。色の起源はイエローとオレンジダイヤモンドの色と同様のカラーセンター(4個の窒素原子と1個の炭素原子の欠陥)と結晶構造の歪みによる組み合わせによるものと考えられています。
7:ブラックダイヤモンド
1990年までにはブラックダイヤモンドはほとんど工業材料として使われていましたが、研磨後のブラックダイヤモンドは、どんなカラーストーンでも匹敵するものはないほどの光沢と輝きを有し、再び人気になってきました。天然のブラックダイヤモンドも非常に希ですが、現在市場に出回っているのはほとんどトリートメントされたものです。ブラックダイヤモンドの黒色は、他のカラーダイヤモンドとは異なり、インクルージョンであるグラファイトや鉄鉱石などが反映した色です。
8:ホワイトとグレーダイヤモンド
乳白色のようなきらめきを示すダイヤモンドはホワイトダイヤモンドと呼ばれています。時には色が非常に薄くなり、グレー色にも見えます。雲のように微細なインクルージョンや高含有量の水素原子によるものと考えられています。
ダイヤモンドは無色透明なものがよいと考えられている人も多いと思いますが、完璧な結晶に近いためです。しかし、自然界で生まれた非常に希少なファンシーカラーのダイヤモンドは結晶的に欠陥があっても、その美しい色はとても人気が高く、その希少性からも価値が高い石となっています。完璧な結晶こそがすべてではありません。欠陥が美しい色を生み出すカラーダイヤモンドこそ、評価が上がるのです。
執筆
阿依 アヒマディ
理学博士・FGA。国際鉱物学会(IMA)宝石素材委員会日本代表。国際宝石学会理事。京都大学理学博士号取得後、全国宝石学協会 研究主幹を務め、2012年にGIA Tokyoラボを立ち上げる。現在はTokyo Gem Science社の代表およびGSTV宝石学研究所の所長として、宝石における研究、教育セミナー、宝石鑑別などの技術サポートを行っている。宝石の研究、鑑別に関して日本を代表する宝石学者。