アヒマディ博士のジュエリー講座 Vol. 4
宝石の科学―ルビーの原産地とその処理(二)
ルビーは古くから大切な宝石とされ、パワー、愛、ロマンスを呼び起こすといわれる素晴らしい宝石です。宝石品質を持つルビーは世界でほんの限られた国々で産出され、最も重要な産出地ビルマ(ミャンマー)以外に、ベトナム、カンボジア、タイ、スリランカ、マダガスカル、タンザニア、モザンビーク、そして中央アジアなどが挙げられます。もちろん、原産地は、そのルビーはどのような母岩から生まれたのか、どのような品質のものが産出されているのか、どのような特異な内包物が含まれているのか、とても大事な情報を与えてくれます。同程度の品質(特に高品質)でもミャンマー産とアフリカ産のルビーでは市場価格が大きく変わります。
世界で最も有名なルビーの原産地 ーミャンマー
▲著名なルビーの産出地モゴック鉱山
ミャンマーは15世紀以降、ルビーの主な産出国となり、有名なモゴック(Mogok)地方の鉱山は歴史が古く、透明度の高い美しい濃さを有する赤色のルビーを産出します。この地域のルビーは、不純物の少ない大理石から産出されているため、紫外線を当てると強い赤色を発する特性を持ちます。大粒の原石が少ないですが、最も高品質な「ピジョン・ブラッド」と呼ばれるルビーはとても美しく、高値で流通しています。
同国の中央部に位置するモンスー(MongHsu)鉱山から産出されたルビーは、1993年以降、競争力を見せています。この鉱山から算出されるルビー原石は、中心部に濃い青い色帯を示し、加熱することによって、非常に美しい小粒のルビーを得られます。
1990年代に登場したベトナムのルビー
ベトナム産ルビーは、同じ大理石から採掘されていますが、さまざまな濃淡色を呈し、原石中に発達した双晶面により透明度が低下するため、高品質のものはごく少ない現状です。また、産出量にも限界があります。
火山岩起源のルビーの原産地―タイ王国
1960年後半に、ビルマの国政が悪化したため、モゴック鉱山からのルビーの供給が低迷している際に、タイのチャンタブリ地区の玄武岩中に大量のルビーが発見され、宝石市場に飛躍的なシェアーを高めました。70-80年代のルビージュエリーの多くはタイ産となり、黒味を取り除く加熱技術が開発され、色が向上されています。
21世紀に発見された世界最大級のルビー原産地 ―モザンビーク
2009年にモザンビークのモンテプエス地区に分布する5億年前に形成された河川の砂礫層から大量なルビーが発見され、なんとその二次鉱床のすぐ下にルビーの母岩である広域変成岩があり、一次鉱床として世界最大級を誇っています。モザンビークのルビーは、数百年伝統を持つミャンマー産のルビーと比べ、ややオレンジとパープルを帯びた赤で、蛍光性がやや低めです。モザンビーク産のルビーは、ほとんど加熱の必要はないといわれていますが、シンガポールのオークションに出てくるような高品質の原石に限っていえることです。 それでも非加熱で美しいものは半分程度です。加熱をすれば、よりきれいな色になるため、カットしてから加熱するものも多いそうです。今後も、最も注目される産地になると思います。
本来、美しい宝石には研磨以外の手を加える必要がありません。しかし、美しく透明度の高い宝石ができる地下の成長環境は非常に限られており、高品質の宝石の数も少ないです。そのため、宝石の潜在的美しさを引き出すために、さまざまな加工処理が行われています。もちろん、処理されていない宝石は、処理されたものよりもはるかに高い価格で取引されていますが、加熱加工、軽度なオイル/樹脂含浸された宝石は、市場が一定レベルの価値を認めます。
多くのルビーは、色を改良するために加熱加工されています。例えば、熱すると、アフリカ産ルビーの褐色味が消えます。スリランカ産ルビーはより赤色になります。ミャンマーのモンスー産ルビーの青い色帯がなくなります。
▲スリランカの伝統的な河川での採掘現場
▲新しいルビーの開発地モザンビークのモンテプエスルビー鉱山
▲ルビーの色を改良するための加熱炉
▲加熱後のルビーの原石
執筆
阿依 アヒマディ
理学博士・FGA。国際鉱物学会(IMA)宝石素材委員会日本代表。国際宝石学会理事。京都大学理学博士号取得後、全国宝石学協会 研究主幹を務め、2012年にGIA Tokyoラボを立ち上げる。現在はTokyo Gem Science社の代表およびGSTV宝石学研究所の所長として、宝石における研究、教育セミナー、宝石鑑別などの技術サポートを行っている。宝石の研究、鑑別に関して日本を代表する宝石学者。