アヒマディ博士のジュエリー講座 【特別講座】
エメラルドと思わせるグリーン色のパライバ・トルマリン

ブラジル産パライバ・トルマリン

▲ブラジル産パライバ・トルマリン

 パライバ・トルマリンはすべてのトルマリンの変種の中で最も価値があり、断然人気があります。“パライバ・トルマリン”という商業名は、ブラジルの北東部にあるパライバ州のSao Jose da Batalha地域の鉱区から産出された彩度の高いブルー~グリーンのエルバイトに初めて使われました。この宝石は、1987年に発見され、一躍世界的に有名となりましたが、近年では鉱山からの供給源は激減し、鉱山の閉鎖が続出しています。今後ブラジルの産出量はきわめて限定的になるかと思われます。

宝石品質の含銅パライバ・トルマリンには淡いブルー、バイオレット・ブルー、ネオン・ブルー、ターコイズ・ブルー、ブルー・グリーンのさまざまな色調のものが産出しており、これらの色は主に銅(Cu)とマンガン(Mn)の含有量に起因しています。青色が濃ければCu元素を多く含んでいる傾向があり、ネオン・ブルーのものが最も高濃度です。

ブラジル・パライバ州

 しかし、ブラジル産トルマリンにしばしばエメラルドのようなグリーン色を呈するトルマリンが見られます。化学組成を調べてみると、CuOの分含有量は3.0wt%に、MnOは4.0wt%に達しています。そのほか、チタン(Ti)、鉄(Fe)、ビスマス(Bi)などの微量元素が、他のブルーやブルー・グリーンよりも多く含まれており、エメラルドグリーン色に強く関連していると思われます。このエメラルドのような色を呈するパライバ・トルマリンは、バターリア鉱山にしか産出されず、産出量は圧倒的に少なく、パライバ・トルマリンの貴重な色とも言えます。

バターリア産グリーンパライバ・トルマリン

▲バターリア産グリーンパライバ・トルマリン

ブラジル・パライバ州

 2000年代の後半に、アフリカのナイジェリアとモザンビークにも同様なブルー~グリーン色のCu含有トルマリンが採掘されました。しかし、この両産地にはこのような“エメラルド”グリーンはなく、モザンビークには淡い黄色がかったグリーンを示すトルマリンがあり、Cuの含有量も低いです。

 宝石取引において、パライバ・トルマリンは外観だけでなく、その産出された地理的な地域によっても、価格がつけられています。

アヒマディ博士

執筆

阿依 アヒマディ

理学博士・FGA。国際鉱物学会(IMA)宝石素材委員会日本代表。国際宝石学会理事。京都大学理学博士号取得後、全国宝石学協会 研究主幹を務め、2012年にGIA Tokyoラボを立ち上げる。現在はTokyo Gem Science社の代表およびGSTV宝石学研究所の所長として、宝石における研究、教育セミナー、宝石鑑別などの技術サポートを行っている。宝石の研究、鑑別に関して日本を代表する宝石学者。

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