(番組ガイド誌「ジュエリー☆GSTV番組表」 2017年10月号掲載)
アヒマディ博士のジュエリー講座【速報】
よみがえった北アメリカのトレジャー”モンタナ・サファイア”
モンタナ州における採金の時代は1800年代の後半に始まりました。当時、金の採鉱は大変人気になり、多くの人々がこの地域に押し寄せてきました。そして、偶然にも探鉱者によってヨーゴ渓谷で青色の石が見つかりました。ティファニー社のKunz博士がこの石はサファイアであることを証明し、コーンフラワー(矢車菊)のような青色を呈するヨーゴサファイアを絶賛しました。その後、モンタナ州のミズーリ川、ドライ・カットンウード・クリーク(小川)、ロック・クリークなどの地域で相次いで、多様な色相を持つファンシーカラーサファイアが発見され、スイスの時計製造業界に大量に供給していきました。しかし、1930年後半に世界宝飾市場に合成サファイアが導入され、モンタナ・サファイアの採掘は衰弱期を迎えました。
▲ファセットカットした
ファンシーカラーサファイア
近年、美しい自然の中に眠っていたサファイアは再び新しい採掘時代に向かおうとしています。特に、モンタナ州のジェム・マウンテン地区のロッククリーク鉱山は最も豊かな鉱床であり、見つかったサファイアは“ロッククリーク・サファイア”と呼ばれています。2011年に、Potentate Mining鉱山会社はジェム・マウンテン地区の北部を購入し、最先端の採掘技術を導入し、この歴史的、最も重要な採掘現場をよみがえらせ、新たな最盛期を始めようとしています。今回、“麗しの宝石物語”の番組チームが鉱山を訪れ、モンタナ・サファイア鉱山の現状を視察しました。
モンタナ州のロッククリーク・サファイア鉱山
▲モンタナ州ロッククリーク・サファイア鉱山の
採掘現場
ジェムマウンテン地域のロッククリーク・サファイア鉱山は二次鉱床であり、サファイア原石は沈泥や砂礫や巨礫から混合した泥流堆積岩から採集されています。一次鉱床である母岩は見当たらなく、火山岩である流紋岩に関連していると鉱山の地質学者が解釈しています。かつて、鉱夫たちは水圧により河川周囲で採掘しましたが、Potentate Mining鉱山会社は地上磁気探知機による科学調査を行い、ジェムマウンテンの北部と南部のガルチ(渓谷)や丘の頂点部分にきわめて高い生産量があると判断しています。年間10キロの原石を採集していますが、昨年30キロにも達し、採掘敷地内にサファイアがまだ豊富にあることを確信しています。副産物として金も回収され、1立方ヤード当たりに数十ドルの金を産出しています。
ロッククリーク・サファイア
ロッククリーク鉱山から採掘されたサファイア原石の多くは、典型的な火山岩起源のコラン ダム結晶形を持ち、一部は運搬作用により丸みを帯びた形となっています。サイズの幅が広く、 3mmから12mmに及びます。最大の原石は60カラットに達しています。最も印象的なのは、 ロッククリーク・サファイアの透明度が高く、色の濃度は薄いですが、黄緑色、青色、ピンク、紫 色、黄色、オレンジのファンシーカラーが多いのです。まれにルビーも産出されています。 10%の原石は上質であり、美しい天然のファンシーカラーの1カラット以上のファセットカット 石に変わりますが、大半は加熱処理によってより濃い青色が形成されます。
▲選鉱プラント
▲比重分離機で採集されたサファイア
執筆
阿依 アヒマディ
理学博士・FGA。国際鉱物学会(IMA)宝石素材委員会日本代表。国際宝石学会理事。京都大学理学博士号取得後、全国宝石学協会 研究主幹を務め、2012年にGIA Tokyoラボを立ち上げる。現在はTokyo Gem Science社の代表およびGSTV宝石学研究所の所長として、宝石における研究、教育セミナー、宝石鑑別などの技術サポートを行っている。宝石の研究、鑑別に関して日本を代表する宝石学者。