(番組ガイド誌「ジュエリー☆GSTV番組表」 2017年9月号掲載)
イーダーオーバーシュタインの宝石彫刻 第2章
~緊急企画!ムンシュタイナー氏来日によせて~「ムンシュタイナーカットとは」
2017年9月、ムンシュタイナーカットの生みの親ベルント・ムンシュタイナー氏と、ムンシュタイナーカットを唯一伝承され、さらに自らの新しいカット生み続けるトム・ムンシュタイナー氏の親子お二人が来日しました。この機会に、皆様に改めてムンシュタイナーカットと、それを生み出す3人の芸術家をご紹介させていただきます。
ムンシュタイナーカットとは
▲ドイツ宝石博物館に展示されている
ルチルクォーツのオブジェ。
私は、これまで様々な彫刻家や宝石業者に加え、多くの宝石コレクターそしてジュエリーを愛好されているお客様とお会いしてきました。皆様それぞれに感じていらっしゃるムンシュタイナーカットの魅力をお聞きする中で驚いたことは、皆さんが感じている魅力が非常に多岐にわたるということです。その魅力の多様性こそが、ムンシュタイナーカットの真の魅力なのではないかと思います。カット技術、芸術性、美しさ、計算された光の屈折、美的センス、斬新さ、存在感、オリジナリティ・・・本当にたくさんのキーワードが出てきます。その魅力を一言で説明すること自体がナンセンスであると言えるでしょう。
▲カット前にデザインが描かれたアクアマリン。
こうした前提を踏まえて、あえて私の言葉でムンシュタイナーカットの魅力をお伝えするならば、地球という大自然の中で育まれた宝石の持つ輝きと美しさを、最大限に引き出すという彼らのフィロソフィーであると言えます。宝石に輝きや美しさを増すようなカットを施すのではなく、その宝石が本来持っている輝きと美しさを彼らのカットによって最大限に引き出すのです。この違いはとても大きいと私は考えています。こうした宝石に対する謙虚で真っ直ぐに向かう彼らの姿勢が、素晴らしい作品を生み出す原動力であると思います。
▲巨大なパライバトルマリンのカット。
ムンシュタイナーカットは、宝石の表面ではなく裏面に大胆なカットを施すことで鏡面効果を生みだします。一見すると非常にシンプルに見えますが、光の屈折を計算したうえでそれぞれの石の持つ特性を考慮しながらカットしていかねばならず、卓越した技術とセンスが求められるのです。これを彼らは、「石と対話をしていく」とよく話してくれますが、なんてぴったりな表現だろうと思います。石の特徴を知り尽くし、高度なカット技術を用いる、そして何よりそこに彼らのフィロソフィーが吹き込まれることによってムンシュタイナーカットが完成するのです。
アトリエ トム・ムンシュタイナー
▲白を基調とした工房の外観
▲いつ訪れても整理整頓されている作業場
▲工房前でお三方とともに
宝石街道という名のイメージにふさわしい、美しいドイツの街並みと草原が続く丘陵地帯を走り抜けていくと、イーダー・オーバーシュタイン近郊の小さな集落に到着します。その妖艶な輝きと芸術的なカットで世界的に有名なムンシュタイナーカットは、この素晴らしい環境にあるアトリエ トム・ムンシュタイナー(以下、「工房」)で生み出されています。白を基調とした石造りの工房は、まるで幾何学模様のムンシュタイナーカットのような佇まいでこの集落でも際立つ存在ですが、建物に入る前に大半の来訪者がまず驚かされることがあります。エントランスのドアノブが巨大なスモーキークォーツなのです。そう、もちろんムンシュタイナーカットです。
また、私が工房を訪れるたびに感心させられるのは、工房全体が常に整理整頓され、きれいに掃除されているということです。不要なものは一切なく、作業台や床は美しく掃除されています。こうした美しい場所でムンシュタイナーカットは一つ一つ磨かれて生まれていくのです。
Tom Munsteiner トム・ムンシュタイナー
▲トム・ムンシュタイナー氏(右)
ベルント・ムンシュタイナー氏を父に持ち、ムンシュタイナー家4代目の宝石カッター。父をも凌ぐとも言われるカット技術によって、新しいカットを数々考案、発表している。先代から受け継がれた技術を吸収し、自らのオリジナリティを加え生み出されるカットは、独創的で美しい。
1969年 | イーダー・オーバーシュタイン近郊のベルンカステル・クースに生まれる |
---|---|
1989年 | 宝石研磨士としての職人検定審査合格。父ベルント・ムンシュタイナーの元で宝石研磨技術を学ぶ |
1995年 | 国家公認宝石・宝飾デザイナー |
1995年 | 宝石カットのマイスター試験合格 |
1997年 | アトリエ「トム・ムンシュタイナー」設立。現在に至るまで20以上の世界的な宝石賞を受賞。 |
Bernd Munsteiner ベルント・ムンシュタイナー
▲ベルント氏。
お孫さんのフィリップ君とともに
▲ドンペドロ
ムンシュタイナーカットを生み出し、世に広めた張本人。光の魔術師と呼ばれ、世界中のジュエリー愛好家をファンに持つ。世界一の宝石カッターと称され、長年様々なムンシュタイナーカット作品を世に送り出してきたが、ワシントンDCのスミソニアン国立自然史博物館に収蔵・展示されている「ドンペドロ」(10,363ctのアクアマリンのオブジェ)は、その美しさ、大きさともに別格。
1943年 | イーダー・オーバーシュタインに生まれる |
---|---|
1957年 | 父ヴィクトルムンシュタイナーの元で宝石研磨の修行をし、その後フォルツハイムの美術造形専門学校にて宝石デザインを学ぶ |
1966年 | マイスター試験合格 |
1973年 | アトリエムンシュタイナーを設立。その後、数々の世界的な宝石賞を受賞 |
1993年 | アクアマリンのオブジェ「ドンペドロ」制作 |
1997年 | 工房を息子トム・ムンシュタイナーへ引き継ぐ |
Jutta Munsteiner ユッタ・ムンシュタイナー
▲コーディネートが
素敵なユッタ氏
夫トム・ムンシュタイナー氏とともに、工房運営の中心を担うジュエリーデザイナーでありジュエリー職人。トム氏がカットした宝石を使って、リングやペンダントなどのジュエリーを制作する。その活躍は高く評価され様々な賞を受賞。近年では、2015年International Design Awardのジュエリーアクセサリー部門で金賞を受賞した。
1968年 | イーダー・オーバーシュタイン近郊ヘルメスカイルに生まれる |
---|---|
1989年 | 金細工職人としての職人検定審査に合格 |
1995年 | 国家公認宝石・宝飾デザイナー |
1995年 | マイスター試験合格 |