アヒマディ博士のジュエリー講座 Vol.33
長石からできた宝石の大家族(1)

宝飾市場でよく見られるムーンストーンのジュエリー

▲ 宝飾市場でよく見られる
ムーンストーンのジュエリー

 長石の硬度は石英より低いのですが、宝石としての変種の多さとジェリーとしての歴史もかなりの伝統があり、世界中に知られた宝石の一つです。変種の中でもムーンストーン(月長石)は古代インドの神話に登場し、月の光によって作られたと考えられ、石内部から散乱する青色の閃光は確かに満月を想像させます。スリランカでは七つの宝の一つとして必ず集めないと幸運が来ないと信じられていました。近代においては、ティファニー社のメジャーな宝石として、著名なデザイナーのルイス・コンフォート・ティファニー氏による傑作のジュエリーによく使われていました。ムーンストーン以外に長石にもとても珍しい光学現象を示すサンストーン(日長石)という変種もあり、キラキラとした内包物の反射は太陽を連想させ、長石のとても美しい品性をよく現しています。

長石とは

火成岩に含まれるカリウム長石

▲ 火成岩に含まれるカリウム長石

 地球の地殻に最も広く大量に存在する造岩鉱物で、カリウム、ナトリウム、カルシウムなどの元素から構成されたアルミノケイ酸塩で、火成岩や変成岩や堆積岩に広く含まれ、地殻の60%を占めています。長石には主にこの三つの元素を端成分とする三成分系があり、カリウム長石(KAlSi3O8, カリ長石)、ナトリウム長石(NaAlSi3O8, アルバイト)、カルシウム長石(CaAl2Si2O8, アノーサイト)に分かれています。それぞれが端成分として形成されるものと、この三種類が混合して形成された固溶体があります。三角ダイヤグラム図で示したように、カリウム長石-ナトリウム長石の固溶体系列(アルカリ長石グループと呼ぶ)とナトリウム長石-カルシウム長石の固溶体系列(斜長石グループ)に分かれます。

1:アルカリ長石(カリウム長石-ナトリウム長石)の固溶体系列に含まれる変種

生成温度によって、カリウム長石には高、中、低温型の三つの変種−玻璃長石(サニディン)、正長石(オーソクレース)、微斜長石(マイクロクリン)があります。ナトリウム長石にも高、中、低温型のアルバイト(曹長石)の変種があります。

2:斜長石(ナトリウム長石-カルシウム長石)の固溶体系列に含まれる変種

ナトリウム長石(アルバイト)とカルシウム長石(アノーサイト)の両成分の割合比率によって、アルバイト、オリゴクレース(灰曹長石)、アンデシン(中性長石)、ラブラドライト(曹灰長石)、バイトウナイト(亜灰長石)、アノーサイト(灰長石)などの6変種に細分化されます。

長石の結晶形

▲ 長石の結晶形

 長石の外観は基本的に白色、淡黄色が多く、ガラス光沢で、柱状や板状の結晶形を示します。生成温度の低下によって、異なる二つの相に分離する離溶現象が発生し、双晶として出現することが多く、青色の閃光効果を示すのが最大の特徴です。また、内包物の反射によってキラキラとした虹色の輝きを示すものもあります。長石の成分範囲は大変複雑で名称もいろいろあります。以下に、各固溶体系列に含まれる長石の宝石を分類して紹介します。

長石の成分の三角ダイヤグラム図

アルカリ長石の固溶体系列に含まれる宝石

光学現象を示さないもの−オーソクレース、アマゾナイト、サニディン

透明な淡黄色を呈するオーソクレース

▲ 透明な淡黄色を呈するオーソクレース

「イエロー・オーソクレース(正長石)」

バニラのような薄い黄色を呈する透明な石で、直角のような二つの面に従って劈開する特徴から、ギリシャ語「orthos」という意味の名を付けられました。マダガスカルから大きいサイズのものが産出されています。

色が濃く最も透明感のあるウイグル産アマゾナイト

▲ 色が濃く最も透明感のあるウイグル産
アマゾナイト

アメリカコロラド州産アマゾナイトの原石

▲ アメリカコロラド州産アマゾナイト
の原石

「アマゾナイト(微斜長石)」

美しいターコイズ・ブルーのような緑青色と空青色を示す半透明と不透明な石で、微細な流れ模様を示すのが特徴です。名称は南米のアマゾン川に因んでいますが、その領域に産出がなく、ブラジル、新疆ウイグル自治区、そしてアメリカのコロラド州が重要な原産地です。

アマゾンで販売されている緑色味のある黄色サニディン

▲ アマゾンで販売されている緑色味の
ある黄色サニディン

「サニディン(玻璃長石)」

ギリシャ語で「小板」を意味する「sanis」から名づけられた緑色がかった黄色の宝石です。ドイツのアイフェル地方はその名産地となっています。

光学現象を示すもの
−オーソクレースの「サンストーン」、オーソクレースの「ムーンストーン」

サンストーン
アメリカのオレゴン産自然銅を含むラブラドライト・サンストーンの原石

▲ アメリカのオレゴン産自然銅を含む
ラブラドライト・サンストーンの原石

オレンジ赤色を示す長石をギリシャ語では太陽を意味する「ヘリオ」で表し、サンストーンのことを「ヘリオライト」と呼ぶ場合があります。長石が成長する過程で多くの微細な板状の内包物が取り込まれ、光が内包物によって反射され、キラキラとした虹色の輝きが現れます。この光学現象は“アベンチュレッセンス効果”と呼ばれます。

へマタイト(赤鉄鉱)やゲーサイト(針鉄鉱)や自然銅などによってオレンジ、赤色、褐色の輝きが形成され、雲母によって緑色の輝きが現れます。アルカリ長石の固溶体系列の中ではオーソクレース、斜長石の固溶体系列では、オリゴクレース、アンデシン、ラブラドライトなどが「サンストーン」のような効果を示す場合があります。

オーソクレースのサンストーンの名産地としてはタンザニア、オリゴクレースのサンストーンはインド、アンデシンのサンストーンはチベット、ラブラドライトのサンストーンはオレゴンが挙げられます。

 
ムーンストーン
長石には最も珍しい月光のような青色閃光を放つ光学現象を示す各種のムーンストーン

▲ 長石には最も珍しい月光のような
青色閃光を放つ光学現象を示す各種の
ムーンストーン

南インドのタミル・ナードゥ州産<br>ミルキー閃光を放つムーンストーンの原石

▲ 南インドのタミル・ナードゥ州産
ミルキー閃光を放つムーンストーンの原石

白色と青色が混じり合った月光のような青色閃光を放つシラー効果を持つものは、鑑別書に「通常、“アデュラレッセンス効果”や“ムーンストーン効果”とも呼ばれます」というコメントのある長石です。結晶構造から見ると、混じり合った二つの長石−オーソクレースとアルバイトが冷却するにつれ、分離しながら交互に重なった薄層の積層組織が形成されます。光がこの薄層間を通過するときに散乱し、青色の閃光現象が現れます。この種の宝石を異なる角度で見ると、青色の閃光が波打つような動きの光として見られ、霧の隙間から月の光が輝くような外観が現れます。最高品質のムーンストーンは、揺れ動きの強い、鮮やかなブルーのきらめきを持つ透明ガラス質のものです。スリランカとインドから産出されたムーンストーンはこのオーソクレースとアルバイトの混合種に属しますが、青みを帯びたミルキーのシーンはスリランカ産ものに顕著に現れ、「ロイヤル・ブルー・ムーンストーン」というトレードネームがつけられています。インド産のものは層状組織の発達がやや劣り、青色閃光の効果が弱いものが多くなります。

また、斜長石の固溶体系列にも、青色閃光を生じるものがあり、アルバイト・ムーンストーン(高温状態のアルバイトとオリゴクレースの混合で、“ペリステライト”とも呼ばれます)やラブラドライト・レインボームーンストーン(アンデシンとラブラドライトの混合)が挙げられます。

アヒマディ博士

執筆

阿依 アヒマディ

理学博士・FGA。国際鉱物学会(IMA)宝石素材委員会日本代表。国際宝石学会理事。京都大学理学博士号取得後、全国宝石学協会 研究主幹を務め、2012年にGIA Tokyoラボを立ち上げる。現在はTokyo Gem Science社の代表およびGSTV宝石学研究所の所長として、宝石における研究、教育セミナー、宝石鑑別などの技術サポートを行っている。宝石の研究、鑑別に関して日本を代表する宝石学者。

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