イーダーオーバーシュタインの宝石彫刻(2)
~老舗の宝石研磨会社 Wild & Petsch(ヴィルドアンドペッチ社)~

 2014年1月から約1年間お話させていただいた「ストーンカメオ講座」に続き、2015年1月から不定期でスタートした「イーダー・オーバーシュタインの宝石彫刻」。2回目となる今回は、イーダー・オーバーシュタインの老舗の宝石研磨会社であるWild & Petsch(ヴィルドアンドペッチ社)のご紹介です。


Wild & Petschとは

Wild & Petsch本社の入口

Wild & Petsch本社の入口

左から:本社前の草原:宝石をモチーフにしたガラス細工のドア:ショールーム

左から:本社前の草原:宝石をモチーフにしたガラス
細工のドア:ショールーム

 高度な研磨技術を持ったヴィルド社と豊富な原石入手ルートを持ったペッチ社との合弁会社であり、イーダー・オーバーシュタイン(以下、イーダー)でベスト3に入る宝石研磨会社です。1901年創業の老舗で、現在の社長は4代目にあたります。

 本社はイーダー近郊のキルシュバイラーの静かな高台にあり、熟練した職人達が日々宝石のカットを行っています。本社の目の前には美しい草原が広がっているのですが、私は訪れるたびに、その静かで雄大な眺めに癒されています。

品質への強いこだわり

45年のキャリアを持つファラー氏の作業風景

45年のキャリアを持つファラー氏の作業風景

約35年前のファラー氏の作業風景

約35年前のファラー氏の作業風景

 「Tradition and Perfection(伝統と完璧さ)」というモットーを掲げているのが納得できるほど、品質には強いこだわりを持ち、トルマリン、ベリル、タンザナイト、アメジストを中心に様々な種類のカットされた宝石を世界中に送り出しています。

 タイにもカット工場を持っていますが、高い品質を維持するためにカットの初期工程であるプリフォーミングはすべてドイツ・イーダーの本社の職人が行っています。

 ドイツというと一般的に、人件費を含むコストが決して安くはありませんが、高い品質を維持するため、また、顧客ニーズに応えるためにプリフォーミング工程はドイツ・イーダーでの作業にこだわっているのです。加えて、工具や機器の自社開発を行い、独自の技術を高める努力をし続けていることもこの会社の特徴です。

原石の調達と若い人材の育成

カットされショールームに並ぶ宝石たち

カットされショールームに並ぶ宝石たち

 ヴィルドアンドペッチ社は、材料の調達は原石でしか行っていません。長年にわたるブラジルやアフリカとの強いパイプを活かして、品質の高い原石を一括で仕入れることにより、適正な価格で市場に供給できる体制を築くことを目指しています。私が先日訪れた際も、ギニア人宝石商が原石を持ち込み、光が差し込む商談室で担当者が原石の選別を行っているところを見かけました。

 技術継承のため若い人材の育成は不可欠ですが、それは簡単なことではありません。3年間の修行を経て職人としてのスタートラインに立ち、その後10年ほど仕事を続けようやく一人前と言われる厳しい職人の世界。ヴィルドアンドペッチ社では、本人の興味や適性を見極めるために研修生への職業体験に力を入れているとのことで、私が訪れた際も3人の若い研修生が必死に石のカットを学んでいました。

 山あいにあるこの小さな町に世界中から原石が集まり、品質にこだわり完璧さを求める職人の情熱と技術によってカットされ、また世界中に旅立っていく。なんとも素敵な物語だと思いませんか。

執筆

ストーンカメオ研究家三沢 一章

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